2007年6月3日
公害をなくする県民会議医師団
「公害をなくする県民会議医師団」(県民会議医師団)は、2006年5月以来、不知火訴訟患者原告の入院精査をおこなった。この中で、県民会議医師団は2006年4月に確認された「共通診断書」に基づき診断をおこなった。その結果、県民会議医師団は、2007年5月末までに、1270名のうち、670名余の診察を終了し、581名の共通診断書に基づく診断書を作成した。
ところで、2004年10年15日、最高裁判所は水俣病関西訴訟について、国・熊本県の責任と医師の所見として感覚障害のみの水俣病を認めた。その後同年11月、熊本県は不知火海沿岸住民47万人の健康調査を提案したが、環境省の容れるところとならず、未だに実施されていない。現在、環境省は第二の政治決着に向けて一定の調査を実施していると聞いている。
今回の調査結果は、水俣病の認定申請を行なった者のうち裁判を提訴した者に関するものであるが、認定申請をしている全ての者たちの傾向を知る上で極めて重要な資料であると考える。これまで、私たちは最高裁判決以降の申請患者の症候について報告してきたが、最高裁判決後、認定申請者のうち500名を超える多数の患者の症候を、共通診断書に基づいて調査した結果の公表はこれが初めてであり、医師の関与の下で行なわれたものとしては極めて精度の高いものだからである。
国民各位はもちろん、水俣病に関係する全ての患者および患者団体やこれを支援する弁護団や支援団体、水俣病を研究する団体、司法および関係各県、環境省さらに関係県議会や国会などの各位、さらにチッソ等の原因企業も含め、今後、この資料を下に水俣病問題の抜本的解決策の策定に向けて検討されることを心から切望するものである。
5. 共通診断書にもとづく、水俣病の診断基準は以下の通りである。
A. 魚介類を介したメチル水銀の曝露歴があり、四肢末梢優位の表在感覚障害を認めるもの。
B. 魚介類を介したメチル水銀の曝露歴があり、全身性表在感覚障害を認めるもの。
C. 魚介類を介したメチル水銀の曝露歴があり、舌の二点識別覚の障害を認めるもの。
D. 魚介類を介したメチル水銀の曝露歴があり、口周囲の感覚障害を認めるもの。
E. 魚介類を介したメチル水銀の曝露歴があり、求心性視野狭窄を認めるもの。
F. 上記A〜Eに示す身体的な異常所見を認めないものの、魚介類を介したメチル水銀の濃厚な曝露歴があり、メチル水銀によるもの以外に原因が考えられない、大脳皮質障害と考えられる知的障害、精神障害、または運動障害を認めるもの。
今回の調査による共通診断書の診断基準A〜Eに該当する患者は、以下のとおりであった。ほとんどのものかが複数の基準に該当し、基準A〜Eすべてに該当するものが68名(12%)、基準のうち1つのみに該当するものが66名(11%)であった。基準Fに該当するものは存在していない。
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該当 |
疑い |
非該当 |
基準A |
541名(93%) |
|
40名(7%) |
基準B |
273名(47%) |
38名(7%) |
270名(46%) |
基準C |
450名(77%) |
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131名(23%) |
基準D |
281名(48%) |
31名(5%) |
269名(46%) |
基準E |
164名(28%) |
50名(9%) |
362名(62%) |
※基準Eについては、失明などの理由で5名(1%)が「不明」であった。
これまでの司法判断、認定基準との対比
全員がなんらかの感覚障害を有していた。すなわち、基準A〜Dのどれかが該当し、特に、全員が基準AまたはBに該当した。
基準Aは水俣病第二次訴訟福岡高裁の判断基準、基準Cは水俣病関西訴訟大阪高裁の基準に、ほぼ相当する。基準A該当93%、基準C該当77%、いずれかの基準に該当99%であった。残りの1%も全身性感覚障害を有しており、これは、現時点において、これら対象患者全員がこれまでの司法判断における補償基準内にあることを示している。
基準AとEを満たしている者は24%にのぼり、原告患者の4人に1人は、国の認定基準の条件のひとつである、四肢末梢優位の感覚障害と視野狭窄を満たしていることになる。