200763

水俣病解決のための提言

公害をなくする県民会議医師団

私たちは、本日公表した「ある水俣病訴訟を提起している患者の診断調査結果について」を基に次のとおり提言する。

本来の公衆衛生学的施策をおこなうこと。

 20061120日に熊本地裁に提出された水俣病診断総論にあるとおり、水俣病において、環境被害、食中毒疾患に対して、本来行政によって当然なされるべき以下の施策がどれ一つとして十分に遂行されてこなかった。今日の水俣病の混迷の真の原因はここにあるのであり、原点に立ち戻り、このような施策がおこなわなければならない。

(1) 環境・健康被害拡大の防止

(2) 環境・健康被害の全貌の把握

(3) 健康被害に関する専門家による適正な追求と診断基準

(4) 健康被害などに関する住民への情報提供

(5) 被害者への補償

(6) 教訓を行政の政策として生かす

特に、水俣周辺地域でのメチル水銀汚染による環境と健康被害についての厳密な調査を実施すべきである。そして、重症から軽症までの患者が存在することを含めた、水俣病に関する正確な医学情報を住民に対して提供しなければならない。

水俣病解決の基本は、この間の水俣病に関する医学的研究成果、さらに、これらをふまえた司法判断を土台とすべきである。

メチル水銀による健康被害は、四肢末梢などにみられる感覚障害にとどまらないことが判明している。特に胎児への低濃度水銀曝露が問題となり、2006年の国際水銀会議では様々な政策提言がなされている。

濃厚汚染時期に水俣周辺地域に居住してきた住民は、医師による診察で、感覚障害がみられないか軽度の人であっても、水俣病にみられる諸症状を有していることが多い。感覚障害をきたしている人は、明確な曝露を受けた人々である。

メチル水銀による濃厚汚染時期に水俣周辺地域に居住していた住民において、四肢に感覚障害がみられる割合が他のどのような疾患の有病率よりも高いことは明白である。これまでの行政による認定患者だけでなく、医療手帳該当患者、保健手帳該当患者、現在申請中の患者は、昭和43年以前に汚染地域に居住し、かつ四肢の感覚障害を有しており、水俣病の身体的健康被害者である。

認定患者はこれら患者の一割未満である。昭和52年判断条件が医学的根拠をもたないことはすでに明確になっているが、健康被害を有している人々の一割も診断することができない基準は医学的な診断基準としても、行政による判断条件としても成り立たない。

メチル水銀による健康被害は重症から軽症までさまざまであり、そのような疾患としての水俣病の認定基準と補償内容を定めることが重要である。

これまで、医学界の主流とされた人々が主体的な水俣病の医学的解明を怠ってきたために、その基準の是非について司法の場で判断が下されてきた。これらの司法判断は、現場を調査してきた水俣病研究者の医学研究の成果に基づいており、これらの成果を参考にすることは医学的判断とも矛盾せず、社会的なコンセンサスとなりうるものである。

1995年の政治解決策に該当した患者は、認定審査の段階で医師の診察を受け、私たち県民会議医師団による診断書が提出されるか、国が指定した医師の検診により四肢末梢の感覚障害が認められているものであり、水俣病と認められるべきである。

現在の水俣病認定申請者は、自分が水俣病であるか否かの判断を求めて、申請をおこなっている。少なくとも、これらの患者に対しては、正規の医学的診断の手続きを経た診断をおこない、補償が決定されるべきである。

 水俣病に関する行政施策において、留意すべき事項

水俣病解決の政策を提示していく上で、水俣病が終生続く健康問題であるにもかかわらず、一度、水俣病かどうかを判断して、あるいは補償対象とするか否かを決定して、それで終わろうとしてきた行政の姿勢のあり方は見直されなければならない。軽症例、比較的低曝露の人々、診断困難例などに対する対応については、継続的な問題追求と対処の姿勢を行政が有しているか否かの問題であって、被害者である患者や住民の問題に帰するのは問題のすり替えであり、筋違いというべきものである。

ただし、これまで、行政の意を受けた医学者が水俣病を否定、あるいは診断困難としてきたものの多くは、明確に水俣病としての特徴を備えており、逆転認定された緒方正実氏の例にみられるように、これとは別の多くの問題を含んでいる。このような認定審査会の実態について、今後解明されなければならない。

なお、現在、環境省において第二の政治解決のためとする調査が行なわれているが、以上述べたことからその調査手法については深い疑義があり、かつ今回私たちが公表した「ある水俣病訴訟を提起している患者の診断・調査結果について」の成果も、これまで私たちが公表してきた研究成果も一切含めておらず、この結果についても不十分なものとならざるを得ないことを指摘しておく。この調査結果が公表された際には、私たちもその内容、結果について、検討していく予定である。

 水俣病解決のもつ大きな意味

いまなお、国民の命と健康に対する国や企業の責任のあり方が問われる事件や問題が相次いでいる。水俣病は、これらの諸問題の原点ともいえる課題である。水俣病において国が原則的な対応をおこない、ヨーロッパの一部の国々では国家が責任をもつ事業としてすでに実施されつつあるような、国民の命と健康に関するあらゆる問題をチェックするシステムをつくることは、国民の福利にとって有益なだけでなく、中長期的な目でみれば、将来において、このような被害にかかわる経済的な損失を最小限にすることができる。

また、水俣地域でのメチル水銀汚染と健康被害についての厳密な調査、患者補償、継続的な健康対策を率先しておこなっていくことは、経済発展とともに深刻な環境問題を引き起こしつつある世界各地の状況に対して、日本が警鐘を鳴らしていくという重要な役割を果たすことになりうるものである。

このように、公衆衛生の正しい原則に基づく水俣病解決は、決して過去の清算のみを目的とした事業ではなく、国民と人類の未来を展望した前向きの事業となりうるものであることを特に強調しておきたい。

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